こんにちは。8chunmama(はっちゅんママ)です。
今回は、実務で法人税の申告書を会計ソフトで作成する際、初めて作成するときや慌てているときに陥りがちな別表4と別表5(2)の無限ループについて解説します。
この場合の「無限ループ」とは、
という、どこかが間違っているために起きる、「いつまでも税額が確定しない」状態のことを指します。
他の別表については正しく作成できている、という前提で、法人税申告ソフト(魔法陣をベース)の別表4と別表5(2)の入力方法を解説していきます。
よく無限ループにハマってしまう人、焦って抜け出せない人、初めて均等割以外の税額の出る申告書を作成する人、そしてそういう人が職場にいる人は、是非参考にしてください。
※税務申告ソフトの操作の解説ですので、別表5(1)はすべて別表4と別表5(2)に連動して数字が変わる前提としてお読みください。
取り急ぎ、今ハマっている無限ループから抜け出す方法
今まさに無限ループにハマっていて抜け出せなくてパニック!、という人は、次の手順で操作をしてください。
大丈夫です、この記事をマニュアルにすれば、すぐに抜け出せます。
多少の小さい字でも読める場合には、2ページを1枚に印刷して、並べて見られるほうがよいかもしれません。
上記②で印刷したならば、紙を見て確認します。
法人税等のほか、その他の税金の「損金算入されるもの」・「損金不算入のもの」についても確認します。
特に、予定納税や利子配当源泉については、会計処理と整合性があるかを見ましょう。
仕訳そのものの削除の必要はありません。
期末の「法人税等/未払法人税等」の金額をゼロにしましょう。
ゼロにしない方法もありますが、初心者にはゼロにするのが分かりやすいです。
事務所ルールや担当先ルール、納付の状況によって入力するべき数字が変わってくるので、代表的なパターンを挙げておきます。
<利子配当源泉の額>
ケースA 会計上では租税公課にし、別表5(2)Ⅰで「損金経理による納付」にしている→ここでは考慮外
ケースB 会計上では法人税等にし、別表5(2)Ⅰで「損金経理による納付」にしている→ここでは考慮外
ケースC 会計上では法人税等にし、別表5(2)Ⅰで「充当金取り崩しによる納付」にしている→利子配当源泉の額が31欄に入れる数字の元になる・・・★
ケースD 会計上では未収還付法人税等や仮払税金などで資産計上し、別表5(2)Ⅰで「仮払経理による納付」にしている→ここでは考慮外
<予定納税(「当期分・中間」)の納付時>
ケースE 会計上では未収還付法人税等や仮払税金などで資産計上し、別表5(2)Ⅰで「仮払経理による納付」にしている→ここでは考慮外
ケースF 会計上では法人税等にし、別表5(2)Ⅰで「損金経理による納付」にしている→ここでは考慮外
ケースG 会計上では法人税等にし、別表5(2)Ⅰで「充当金取崩しによる納付」にしている→法人税等の予定納税の合計が31欄に入れる数字の元になる・・・◆
ケースH 会計上では未払法人税等のマイナスにし、別表5(2)Ⅰで「充当金取り崩しによる納付」にしている→この作業では考慮外(最終的には31欄に関係してきます)
<この作業で31欄に入れるべき数字>
納税一覧の「確定納付額」+利子配当源泉の額★(ケースCの場合のみ加算)+法人税等の予定納税の合計◆(ケースGの場合のみ加算)
最後に、別表5(2)Ⅱの41欄「期末納税充当金」が会計上の未払法人税等と同じになっているかを確認しましょう。
ケースA~Gのみではどちらもゼロで一致のはずです。
ケースHの場合は、それぞれマイナスになっていて同額のはずです。
当期中に修正申告をしたパターンは、横道にそれすぎるので今回は省略します。
(考え方は予定納税の納付時と同じです。)
このとき、この合計額をメモしておきます。
魔法陣以外の税務申告ソフトの場合は名称が違うかもしれませんが、確定納付額(年税額ではなく、確定申告時に納付する金額)の合計を確認し、同様に入力します。
このとき、消費税等や事業所税の額を含まないようにします。
※予定納税を未払法人税等のマイナスにしているとき(充当金取崩による納付にしているとき)は、「申告納付額」を入力します。
期末納税充当金がB/S上の未払法人税等と同額になるような金額を入力します。
⑦の金額と同じままだったら修正完了。
もし金額が変わっていたら、別表4と別表5(2)を印刷して見直しましょう。
「5.慌てているときに無限ループにハマる理由」を中心にチェックしてください。
以上が無限ループ脱出法です。
最初の税額計算時の入力手順
無限ループにハマる前の段階、決算整理が終わって「税額計算をして未払計上するだけ」の段階になったときの入力手順は次の通りです。
※その他の別表の入力は完了しているものとし、別表5(2)Ⅰ・Ⅱも確定納付税額以外は適正に処理しているという前提です。
ここで年税額を見ると予定納税や利息配当源泉が入って間違ってしまいます。
予定納税がない場合は油断しがちなので注意しましょう。
ただし、予定納税を未払法人税等のマイナスにしているとき(充当金取崩による納付にしているとき)は、「申告納付額」を入力します。
※振替伝票形式ではなく元帳形式で入力する場合、仕訳の貸借を間違えないように注意しましょう。
入力後、期末納税充当金がB/S上の未払法人税等と同額になるような金額を入力します。
②の金額と同じままだったら修正完了。
利益が変わったときの修正手順
追加の経費等があって利益が変動したときの修正手順は以下の通りです。
別表4と別表5(2)を含め、元々の別表が正しく入力されている前提です。
未払消費税等や未収還付消費税等のほか、税抜経理の場合には消費税差額が変わります。
その場合には、内訳書の修正もしましょう。
金額をメモしておきます。
予定納税を未払法人税等にしているとき(充当金取崩による納付にしているとき)は、年税額を入力します。
期末納税充当金がB/S上の未払法人税等と同額になるような金額を入力します。
④の金額と同じままだったら修正完了。
私が初めてループにハマった理由
実は私も「それまでは法人税法合格前から普通に手書きでも作成できていたのに、(官報合格後なのに)転職先で無限ループにハマってしまった」ということがあります。
それはなぜか?
理由は2つありました。
理由①
法人税の試験問題は、
「当期の確定した決算に基づく当期利益の額」のみが与えられるが、
実務上は
税引前当期純利益と当期純損益金額(税引後の当期純利益)の2種類の利益がP/L上にある状態で申告書を作成する
理由②
転職前の事務所は
利子配当源泉を租税公課で、予定納税を仮払金で処理していたが、
転職後の事務所は利子源泉と予定納税を法人税等(法人税、住民税及び事業税)で処理していた、あるいは予定納税を未払法人税等のマイナスにしていた
転職前の事務所の処理であれば、利子配当源泉(受取利息や受取配当金に課された所得税)と予定納税(中間申告時の納税)を租税公課と仮払金で処理していたので、税引前当期純利益がP/L最下部の利益と同額となります。
これは税金についての経理状況もすべて正しい処理を加味していますので、税引前当期純利益(=税引き後の当期純利益)を別表4の最上部「当期利益」欄①素直に入力すればよいことでした。
これは、もし予定納税を一時的に租税公課で処理していたとしても同じことです。
一方、転職後の事務所のように税額計算前から法人税等の額を入力している処理の場合は、税引後の当期純利益(P/L表示上は単に「当期純利益」)を別表4の最上部「当期利益」欄に入力しなければ、別表5(2)で予定納税や利子源泉を「損金経理による納付」と入力するのは矛盾してしまいます。
「当期利益欄には税引前当期純利益を入れるものだ」、という思い込みが、無限ループの始まりなのです。
よく考えれば当然なのですが、一度ハマると焦ってしまい、自分ではなぜなのかと原因に気付けず、隣の席の人に助けてもらいました。
また、予定納税を未払法人税等のマイナスにしているときは、別表5(2)Ⅱの入力を工夫しなければ、うまく計算できません。
(そこの違いに気付いて予定納税の仕訳を「未払法人税等のマイナス」から法人税等や仮払金に修正してなんとかしようとしましたが、焦ったからか、自力では脱出できませんでした。)
この私のような場合の他、「何も教えられることなく前年の申告書だけを渡して見様見真似で作るように言われた」初心者さんも、同様にこのパターンで無限ループにハマるかもしれません。
「税額を計算する前なのだから税引前当期純利益」を入力するだろう、と考えてしまうでしょう。
※尚、上記の「職前の事務所」は予定納税を仮払金・仮払税金と処理する一方で、法人税等の年税額を「法人税等充当額」で借方入力して、「法人税、住民税及び事業税」としてP/Lに反映、その相手科目は「法人税等充当金」という負債科目にしたり、仮払金(仮払税金)のマイナスと未払法人税等とする処理をしていました。
法人税等充当額(年税額)/法人税等充当金(年税額)
or
法人税等充当額(年税額)/仮払税金(予定納税額)
/未払法人税(確定納付額)
慌てているときに無限ループにハマる理由
私のように事務所の経理ルールが違うところに転職しなくても、無限ループにハマることはあります。
焦っているときに利益の変更があるなどして修正があったときにそれは起こり得ます。
代表的な理由としては
魔法陣の消費税等の欄は、法人税等の額を計算後に入力するのが効率良く、誤りも防げます。
魔法陣の消費税等の欄は、法人税等の額を計算後に入力するのが効率良く、誤りも防げます。
これをすると期末未払法人税等の金額が合わないので、気付いてほしいところです。
利子配当源泉の額が少額であれば、端数処理に吸収されて税額計算に影響はありませんが、この処理は誤りです。
「損金経理による納付」にしたならば「損金経理をした納税充当金」には含めない
「充当金取り崩しによる納付」にしたならば「損金経理をした納税充当金」に含める
が税務上の正しい処理です。
どちらにするかは事務所や担当先ごとのルール、その事業年度の法人税額発生の有無によることもあります。分からない場合には周囲の人に確認しましょう。
初歩的なことですが、慌てていると間違ってしまうかもしれません。
などがあります。
特に転記ミスはもったいないので、十分に注意しましょう。
まとめ
今回は法人税の別表4と別表5(2)の無限ループから脱出法についてお伝えしました。
別表の本質を深く理解していただきたいのですが、それより目の前にあるトラブルの解決が先。
このテーマはずっと書きたいと思っていたものです。
今後もマニュアルとして使える記事を作成していく予定ですので、初心者さん・お忙しいベテランさんのお役に立てばと思っています。
今は法人税の申告書を作っていないよ、という人も、今後作成することになったときは、この記事を思い出して、また訪れてくださいね。
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別表5(1)のことも含めて理解できます。
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